こんにちは!2022年の11月に中国の広東省深圳市から来日した留学生のジャーン ルイウェンです。私はこれまで日本国内のオススメしたい場所やオススメしたいドラマについてご紹介してきましたが、今回は少しジャンルを変えて中国で今話題の日本人、東京大学の名誉教授でありフェミニズム研究の先駆者でもある上野千鶴子(うえの ちづこ)さんについてご紹介したいと思います。彼女の存在は私が日本への留学を決めた理由の1つでもあるのですが、この記事をきっかけに、国籍や性別を問わず、彼女の考えるフェミニズム思想について興味をもってくれる人が増えたら嬉しいです。それでは早速、私が上野千鶴子さんを知ったきっかけからお話したいと思います。
■私が上野千鶴子さんを知ったきっかけ
2010年の夏、私は地元の図書館で上野千鶴子さんの名作「厭女」(原題:女ぎらい)と出会い、この本を片手に旅へでかけました。最初は軽い気持ちで読み始めたのですが、「厭女」を読んでいる間、本の中で紹介されていた彼女の鋭い視点に魅了され、次第に読む手がとまらなくなっていました。その感覚はまるで、頭の構造が再配置されたかのようであり、目的地に到着する頃には、世界を見る視点がこれまでとは全く異なっていました。
■頭の構造が再配置されたかのような衝撃を受けた理由
私はこの本と出会うまで、「全ての男性と女性は対等な存在であり、世の中はバランスが取れている」と思っていました。しかし、この作品をもとに世の中の構図について改めて学んでみると、世の中は「近代資本制社会特有の女性抑圧構造」であり、「父権制社会」だということがわかりました。たとえば、
・高校や大学まで行って学ぶのは男性だけでいい
・女性は家で家事や子育てをすればいい
・管理職は男性だけでいい
・同じ労働量でも、男性は給料が高く、女性や子供は給料が低くていい
・女性は常に男性の思い描く美徳を守り、従順でいなければならない
と言ったことが挙げられるのですが、これをみて、自分の国ではこんな差別はない!と胸を張って主張できる人は何人いますか?きっと、「自分達の国でも同じ傾向がある」と深く頷いた人が多いのではないでしょうか?この他にも、男性と同じように働く女性達は「良い上司」「良い部下」「良い妻」「良い母」といった複数の役割を担わなければならず、もし家事を少しでも休んだり、子供が問題を抱えたりした場合は世間から「母親のせいだ」と言われます。病院を覗いてみても高年齢のケアをするのは「娘」や「嫁」の方が多く、もしケアを拒めば「冷たい」「非常識」だと言われます。
様々な技術の進化や発展を遂げ豊かになったにもかかわらず、数百年たっても「近代資本制社会特有の女性抑圧構造」や「父権制社会」は変わることがありません。それどころか、世界中の女性達は仕事とは別に出産や子育て、家事、介護といった再生産労働は当然かのように無償で負わされています。そこで、上野千鶴子さんは本の中で「専業主婦業も1つの職業であり、労働報酬を計算する必要がある」と提起しました。
このことについて、皆さんはどのように感じましたか?共感しましたか?それとも反論したいと思いましたか?私は正直、なぜ同じアジアでも日本では上野千鶴子さんの様な思想を持つ人が現れて中国では現れなかったのかということにとても興味を持ちました。そこで、このような見解を提起した人々が生活する国はどんなところなのか知りたいと思い日本へ留学することを決めました。
■中国社会の問題を浮き彫りにした対談
2023年2月、中国の動画プラットフォームbilibili(ビリビリ)で北京大学卒の女性3人と上野千鶴子さんの対談した動画が炎上するという出来事がありました。原因は、インタビュアー女性3人の態度や発言に対してです。この時の動画は瞬く間に拡散され、結果、上野千鶴子さんの中国国内知名度は一気に急上昇し、多くの中国人女性ファンを獲得する結果になったのですが、私はこの時の状況こそが今の中国社会問題を表していると感じたので紹介したいと思います。
・動画出演者:北京大学卒の女性3人と上野千鶴子さん
・対談目的:フェミニズムに関してインタビュー
この日のインタビューは北京大学卒のエリートインフルエンサーとして有名な女性3人がフェミニズム研究の先駆者でもある上野千鶴子さんと対談することから、視聴者達は中日両国間のフェミニズムについてレベルの高い話が聞けると思っていました。しかし、ふたを開けてみるとインタビュアーの女性が質問した内容は全て、フェミニズムとは真逆の「あなたが20代前半で結婚しなかった理由は、男性に傷つけられた経験があったからですか?それとも自分の家族に問題があったからですか?」と決めつけたものや、(インタビュアーの女性が)「結婚前はDINKという道を選ぶ予定だったが夫の浮気を防ぐために結婚4年目で子供を産むことにした」といった中国に根強く残る差別的な固定概念に基づいた質問ばかりだったため、期待を裏切られたと感じた視聴者たちはインフルエンサー3人に対して失望し、怒りをぶつけました。
※DINK:収入はあるが子供を意識的に作らない、持たない夫婦のこと
もともと上野千鶴子さんを支持している人達は、彼女が掲げているフェミニズムは「女性が男性のようにふるまいたい」、「弱者が強者になりたい」といった思想ではなく「自由に生きたい」という思想だということを理解しています。さらに、上野千鶴子さん自身もインタビューの中で「フェミニストの中には、結婚している人も、していない人も、子どもを産んだ人も、産んでいない人もいます。別に、結婚していないフェミニストが偉いとは思いません。化粧しないとか、ブラジャーをしないとか、そういうふうなものが正しいフェミニズだという序列があるみたいですけど、それは教条主義といいます」とはっきり発言されていたのに、ゲストとして招待した相手の思想を理解せず、固定概念に捕らわれ優越感を滲ませる3人のインフルエンサー達の発言や行動は視聴者達に経済大国の闇や中国教育の限界を強く感じさせるものとなってしまいました。
■まとめ
今回は、フェミニズム研究の先駆者でもある上野千鶴子さんについてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?中国の新たな時代のテーマは「フェミニズム」と「高齢化」であり、これらのテーマは日本が何年も前に経験したものです。現在、上野千鶴子さんの「フェミニズム」に関する本や対談動画の影響を強く受けた中国の若い女性達は、自己認識と未来について新たな視点を持つようになりなりました。しかし、この女性達の変化に対して世の中が向き合わず極端な方向へ向かってしまった場合、中国の女性は今よりも独立し、独身女性の幸せな生活を開拓するようになるかもしれません。私は、この先の未来を担う女性達が結婚や出産への意欲を今以上に失い、経済大国と呼ばれている中国国内の人口減少を加速させないためにも、まずは今の大人達が「近代資本制社会特有の女性抑圧構造」や「父権制社会」をやめ、弱い立場にある人達に対して敬意を持ち、手を差し伸べられるような世の中にする必要があると思います。古くから根強く残る固定概念を押し付けるのではなく、女性達が自分で自分らしさを定義できる社会、そんな社会へ世界中が目指していけるよう皆さんもフェミニズムとは何か考えてみてください。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
■上野千鶴子さんに関する動画
・上野千鶴子さん 2019年東大入学式 祝辞動画はコチラをご覧ください
・上野千鶴子さんと北京大学卒のインフルエンサーたちとの対談動画はコチラをご覧ください